涙の洪水

それから暫くして、稲村先生が出てこられ、
「終わりました!
ご主人はもう少しして、出てこられます。」

この言葉も…
一体、何度耳にしたことでしょう。

もう、終わった安堵感や不安な思いすら湧いてきません...
それは、幾度もの過去の光景を思い浮かべていたから…
顔が腫れ、頭からは何本ものチューブが出、
白い布に包まれるその姿。

また、同じ姿であろうこと想像すると、
可愛そうで、痛々しくて、心が張り裂けそうになる…
そんな思いだけが私を覆っていました。

でも、まもなく姿を見せた折目さんは、
私の思いに反して、顔の腫れもなくチューブもなく、
白い布で包まれただけの姿でした。

折目さんの横について、病室の前まで来ると、
「少しここで待っていてくださいね」
と、看護婦さんは、
彼を丁寧にベッドに戻して 、
眠っているおだやかな状態にして下さいました。


病室に入り、折目さんの顔を見て、
「折目さん、本当にがんばったね」
と、声にならない心で伝えると、
涙が次々と溢れ出てきて止まりません。

義父と義母に悟られないように、病室の外で sizuku.png
声を押し殺して泣いていると、稲村先生が来られて、
「こちらにどうぞ!」
と、とある部屋に導いて下さいまいした。
その部屋の壁にもたれ、とめどなく
流れる涙にただ身を任せる術しかありませんでした。

今まで…「がんばりましょう」
と、励まして下さってた先生でしたが、
この日は一言もなく、ひたすらに涙する私の横で
下を向いておられた姿が未だ印象的です。