手術当日の温かい思い

1989年3月6日

病院に着いて部屋に入ると、昨夜の事は触れず、
「おはよう」と互いに交わしました。
看護婦さんたちが、せわし気に行き来していたので、
私は邪魔にならないようにと、部屋の外におりました。

7時半過ぎに、
「奥さん、行きますよ。」
看護婦さんの言葉に、折目さんの横に付き添い
手術室まで来たら、そこには、義父が来ていました。

一緒に見送ろうとした時、突然に折目さんが、
「せっちゃん、ここで、待っててくれ!
ずっと、ここで待っててくれ!」
と懇願するように発しました。

「分かった!待っとくよ!」
と返事をすると、折目さんを乗せたストレッチャーが
動き出し、手術室の扉が閉まりました。 

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見送った後、義父は窓の外を見ながら泣いていました。
その姿を見ていると、かわいそうでたまらなくなり、
同時に、なんだか義理の父ではなく、本当の親子に
近づいた思いを自分の中に感じました。

 

待つ間に、私の1番上の兄が来てくれました。
嬉しかったです。

義父と兄と私の三人で、無言のまま待合の椅子に
座っていました。

突然、義父が、
「お兄さん、せっちゃんに苦労させてごめんなーっ」
と言い、兄の手を取って泣いていました。

兄は、
「何を言いますか!?お義父さんっ!
せっこもいたりませんが、一生懸命に してるようです。
一緒に待ちましょう。大丈夫ですよ。」
と、言ってくれていました。

連絡もなしに、思いがけず駈けつけて来てくれた兄。
その気遣いが、本当に嬉しく心強かったです。


仕事の都合で、戻らねばならない兄をエレベーターまで
送って行く時に、
「大丈夫やけ、しっかり待っとけよ!」
と励ましのひと言をくれました。
私は、「うん」とうなずきました。
声に出して返事をすると、涙がこぼれそうだったからです。

エレベーターの扉が閉まりかけた時、
「お義父さんも大事にせーよ!」 のひと言!
返事を返す間もなく、扉が閉まりました。

小倉の母も、悪性リンパ腫が脳にも転移していて、
良い状態ではなく、今にも心が折れそうな時に、
追い打ちをかけるような折目さんの大手術!

娘たちは幼く、本当に大変で心細く感じていた時の心

温まる兄妹たちの言動は、本当に支えとなりました。

義父や義母も一人っ子であり、一人っ子の折目さんも
私の兄妹たちを常に頼りにしてくれていました。

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